ゲームを用いたデジタル療法はアルツハイマー病の進行を遅らせることに役立つか テンセントのイノベーションがヒントを提供

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Tencent Games

1歩1歩ゆっくりと慎重に踏み出しながら、円を描くように何時間も歩き続ける90歳の一人の女性。「お母さんが迎えに来て家に連れて帰ってくれるのを待っているの」、と彼女は言います。それが、彼女が後期アルツハイマー病と闘う中で、繰り返しよみがえる記憶だったのです。

「円を描くように歩き、たった一つの記憶にしがみつく彼女の様子が、行動を起こすきっかけとなりました」、とテンセントのSustainable Social Value(SSV)チームで脳トレーニングプロジェクトの責任者を務めるウェンディ・ワン氏は言います。

この高齢女性に胸を打たれたワン氏は、デジタルを駆使した、健康のためのブレイクスルーを見つけ出そうと考えました。それは認知機能低下の初期段階にある数百万の人々に新しい希望を提供しうる、誰も予想していなかったブレイクスルーです。

テンセントではこれをきっかけに、何年にも及ぶ、ゲーム、ヘルステックおよびクラウドチームの枠を越えた分野横断的取り組みが始まりました。その目的は、ゲームベースの認知機能トレーニングを通じた早期介入が、アルツハイマー病の発病を遅らせることに役立つかどうかを評価することでした。アルツハイマー病は人間の記憶をほぼ完全に喪失させかねない消耗性疾患です。

プロジェクトチームは、認知機能の健康を助けるデジタル療法となるゲームツール「テンセント脳トレーニング(Tencent Brain Training)」を開発しました。このツールは既に中国国内の医師による処方のもと、ご利用いただくことができます。

高齢化に対する懸念の高まり

アルツハイマー病は最も一般的な種類の認知症であり、認知症とは概ね高齢者が罹患する一群の脳疾患の総称です。世界人口の高齢化に伴い、認知症による負荷は高まっています。2050年には認知症を患う人の数は1億4,000万人近くにのぼると予想されており、これは2021年時点での患者数(5,700万人)からみて大きな増加です[1]。また国際アルツハイマー病協会(ADI)および世界保健機関(WHO)によると、アルツハイマー病は高齢

者の死亡原因の上位にランクインしています[2]


[1] Alzheimer’s Disease International, World Alzheimer Report, 2024.


[2] World Health Organization. Dementia Fact Sheet, 2021.

症状を元に戻すことはできないとはいえ、早期、つまり軽度認知障害(MCI)の段階で介入を行うことで、認知機能の低下を遅らせることができるという説がコンセンサスを得つつあります。しかし、高齢者が実際に利用してくれるような方法で早期ケアを幅広く提供することは、ヘルスケアにおける大きな課題です。

ワン氏とテンセントの社員は、シンプルなモバイルゲームから得た教訓を手がかりに、この問題への取り組みに着手しました。

ミニプログラムから医療用アプリへ

プロジェクトの土台として、テンセントゲームズの社会的価値探求センター(Social Value Exploration Center)がWeChat(微信)のミニプログラムとして開発した、気軽に遊べる認知機能トレーニング・ゲーム「パブロフ:ブレイン・イット・オン(Pavlov: Brain’ It On)」が利用されました。

今回プロジェクトチームが知りたかったのは、「パブロフ:ブレイン・イット・オン」で得られる学習を、病院や介護施設などの臨床の場に適用できるかどうかでした。ゲームは医学的に信頼できる介入となり得るのでしょうか。

それを確かめるため、プロジェクトチームはテンセントクラウドの医用画像プラットフォームと協力し、臨床用のソリューションを開発しました。心理学者や臨床医、ユーザーエクスペリエンス(UX)デザイナーと密に連携しながら、医学的に妥当且つ面白く、利用しやすい製品作りの下地を整えていきました。

高齢者と共に、高齢者のために開発

このプロジェクトに重要な貢献をした人物の一人は、テンセントのゲームビジネスアナリストであるアレン・リン氏でした。思いがけず、開発チームと医療専門家の橋渡し役を担うことになりました。

「我々は医療分野での認証を得ることではなく、助けたいという願いからスタートしました。その上で学べるものを熱心に学びました」とリン氏は振り返ります。

ゲームと高齢者介護の橋渡しをすると決心したリン氏は、医学研究に没頭し、論文を読み、臨床医と密に協働しました。しかし最も有益なインサイトは、高齢のゲームユーザーに会いに行き、直接話を聞くことから得られました。プロジェクトチームは自ら定年退職者のコミュニティに溶け込み、実際の行動や好みに基づいて、それぞれのゲーム機能を共同開発しました。

その結果、高齢者にとって効果的な認知療法は次のようなものでなければならないとの結論に至りました:

  • 文字が大きく、コントラストが明確で視覚的に分かりやすいこと。
  • ユーザーの運動能力に合わせるため、スワイプではなくタッチ操作でプレイできること。
  • 料理や衣類の整頓といった現実的で親しみやすいタスクを中心にしつつ、音楽や歌など身近な表現も取り入れること。

プロジェクトチームは、WeChat(微信)のミニゲーム・チームや中山大学(Sun Yat-sen University)の心理学教授であるイシュアン・ク博士をはじめとする専門家と協力しながら、記憶、注意、言語、社会的認知にわたる脳の様々な機能を対象とする4つの中核的トレーニングモジュールを開発しました。認知機能にプラスの効果をもたらすため、このソフトウェアを少なくとも週に3~5回、12週間にわたって定期的にプレイすることが推奨されています。

臨床試験、検証および承認

次の重要なステップは臨床的検証でした。ソリューションの有効性をテストするため、プロジェクトチームは国内の2つの先端的医療機関と協力し、MCIの患者を対象とした臨床試験を実施しました。

参加者はテンセント脳トレーニングを利用する(介入を受ける)グループと、利用しない(介入を受けない)グループの2つに分けられました。

12週間後:

  • 介入を受けたグループは認知スコアが大幅に改善しました。
  • 介入を受けなかったグループは認知スコアが小幅に低下しました。
  • また参加者からは、記憶力が向上し、いらいらした気分が和らぎ、より安全に日常生活を送れるようになったとの報告もありました。

「ガスをつけたまま放置しないとか、ちょっとしたことをまた覚えておけるようになりました。家族も変化に気付きました」と、ある臨床試験参加者は言います。

臨床試験を経て、テンセント脳トレーニングは広東省薬品監督管理局から正式に医療機器として認証を受けました。これにより、中国国内の医師は、このトレーニングをMCIの患者に対する初期治療として処方することが可能になりました。

デジタル健康イノベーションの活用

テンセント脳トレーニングは、消費者向けのテクノロジーが、インクルーシブなデザインや科学的検証、分野横断的な協働を通じていかに医療グレードのソリューションに進化し得るかを示しています。ゲームを用いたこのデジタル療法は、認知機能の低下にごく早い段階で対処するための、拡張可能で非侵襲的、かつ手頃に利用可能なモデルを提供するものです。

「ゲームは単なる娯楽ではありません。それ以外にも大きな可能性を秘めた強力なデジタルツールです」と、テンセントゲームズ社会的価値探求センターのディレクターであるク・ジャン氏は言います。さらにジャン氏は、ゲームがヘルスケアに真の価値をもたらし得ることを示す例は世界中にあり、ゲーム化された介入の有効性は科学によって実証されているとも指摘します。認知機能障害のような課題に対処するためには、長期にわたる持続可能なソリューションが不可欠であり、だからこそ社会的価値探求センターは引き続きこの分野に注力し続けています。

プロジェクトのきっかけとなった冒頭の高齢女性は、今回の成果を享受できないかもしれません。しかしアルツハイマー病がそこまで進行していない数百万の人々にとって、テンセントのゲームから誕生した療法は、記憶や尊厳、自立性を守るための闘いにおける、新しいツールを提供するものです。

もっと知りたい場合は

ゲームと感情の結びつきが高齢者の健康と幸福にいかに役立っているか、テンセントゲームズがどのようにして障壁を乗り越え人々の橋渡し役を担っているかについて、ご興味をお持ちでしたら以下記事もぜひご覧ください。

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