審判の誤審ほど、アスリートとスポーツファンを怒らせるものはありません。しかし、コーチと審判の激しい議論は、いずれ過去のものと なるかもしれません。これは AI を含むテクノロジーの普及により、主要なスポーツにおける審判の誤審は減少傾向にあるためです。  

例えば、イングランド・プレミアリーグは、2019/20 シーズンからビデオアシスタントレフェリー（VAR）を導⼊した結果、リーグ戦で の正しい判定率が 82%から 96%に改善されたと報告しています。これにより、より公平な結果が、チームとサポーターにもたらさ れています。  

これは、AI がアスリート、コーチ、チームオーナー、放送局、観客など、スポーツに関わるすべての⼈々の体験を再定義する⼀つの 例に過ぎません。開発と平和といった共通の価値観を掲げる 56 カ国からなる任意の組織であるコモンウェルスは、2024 年 3  ⽉の記事で、スポーツ市場における AI ソリューションの活⽤が 2023 年の 18 億 5,000 万ドルから 2028 年には 65 億  9,000万ドルに増加すると推計しています。

以下、AI が⼤きな成果を挙げている 4 つの分野を紹介します。 

1. AI、見えざるアシスタント

AIは至る所に存在しますが、スポーツの本質は人間にあります。人間の競争、そしてその興奮と緊張こそが、スポーツを魅力的にしています。エリートレベルでは、50m自由形や100mスプリントが興奮を呼ぶのは、勝者が僅差で決まるからです。

そして、AIが最も有用性を発揮しているのは、コーチ、審判、ファン向けの24時間体制の助手としての役割です。AIを活用したソリューションは、テニスのライン判定の精度向上、世界チャンピオンを目指す選手のトレーニング支援、自宅やバー、スタジアムで観戦する数百万人のファンを試合の真っただ中に引き込むなど、フィールド内外の主要イベントの多くの側面を強化してきました。会場内の観客の流れ管理、観戦者の安全向上、サイバー虐待の防止にも役立ちました。

2. AI + アスリート：パフォーマンスとウェルビーイングの向上、才能の発掘

より速く走る、より高く跳ぶ、より重いものを持ち上げる。アスリートは過酷なトレーニングに耐え、多くのものを犠牲にして最高を目指す。情熱と才能は重要ですが、AIはこれに「プラスアルファ」をもたらします。

よりスマートなトレーニング

以前は、パフォーマンス分析にグラフ分析やセンサー技術が使用されていました。現在はAIがアスリートとコーチにトレーニングやプレーの方法をアドバイスします。トレーニングセッションや試合のAI支援型動画分析は、手の柔軟性、シュートの正確性、体の姿勢などの要因を分析し、個人、競合相手、過去の記録と照合して改善点を特定します。

怪我の予防

怪我は身体的な痛みだけでなく、精神的な苦痛も引き起こします。ウェアラブル技術と動画分析は、過度の負荷や怪我を未然に防ぐことができます。AIに基づく個人に合わせたトレーニングの推奨や早期介入計画は、コーチの判断を支援します。怪我が発生した場合、AIは回復を早める療法を提案できます。

才能の発掘

スカウトはAIを活用して世界中の遠隔地で才能を発掘しています。セネガルのアプリでは、一般のユーザーがスマートフォンで撮影したサッカー選手の動画を、政府のスカウトに送信できます。AIは動画を分析し有望な選手を特定し、結果はデータベースに保存されます。

AIはチェスのような戦術的なゲームでは優れていますが、ダイナミックなスポーツへの応用はまだ成熟過程上にあります。物理的なゲームの複雑さと変動性、各選手の独自の特性、不安定な外部条件などにより、AIがすべてのシナリオを再現、考慮に入れることは現在難しい状況にあります。しかし、AIが進化するにつれ、これらの課題は徐々に克服されていくでしょう。

3. AI + レフェリー：フェアプレー

審判や審判員の偏見や明らかな誤判断により、どれだけの不満や衝突が発生してきたでしょうか？バレーボールやサッカーのようなチームスポーツから、水泳や体操のような個人競技まで、AI支援型審判は審判の公平性を向上させるために導入されています。

ミリメートル単位の精度

高速カメラとセンサーは、選手の微細な動きを捉え、肉眼では見えない洞察を明らかにし、主観性を軽減します。つま先がラインを越えたか？そのダイブは完璧だったか？首の差で競り合ったランナーのうち、どちらが先にゴールしたか？AIはほぼリアルタイムで判断の精度を向上させます。

興奮を維持する

Iは強力なツールですが、ルール、状況、瞬時の判断の相互作用には人間の監視が必要です。これは、芸術的な要素を含む体操や飛び込み、ラグビーやサッカーのような高速チームスポーツにおいて特に重要です。これらのスポーツでは、審判は試合の流れを優先し、軽微な違反で試合を中断しない、という裁量権を持っています。

5. AI + 観客：ファン体験が新たな高みに

最前列の座席

AIにより、観戦スポーツは新たな次元へ進化しました。観客は自宅やスタジアムで、複数のカメラ角度からのクローズアップやリプレイを含む、最前列の視聴体験を得られます。生成AIによって放送局が複数の視点から映像を収録し、編集プロセスを効率化することで、視聴者に迅速に多様なコンテンツを提供することが可能になりました。

知識の深化と学習

今夏、テンセントはXRバーチャルスタジオなど複数のイノベーションを導入しました。AIを活用したデザインとアニメーションが特徴のこのスタジオは、テンセントの独自基盤モデル「Hunyuan」を基盤にしたチャットボット「Yuanbao AIアシスタントアプリ」と連動し、視聴者が画面で観戦しながらスポーツの知識を深めることができました。収集されたデータは、スポーツや選手に関する膨大な情報をアクセスできるため、マニア層にとって大きなメリットとなっています。

パーソナライズされた体験、エンゲージメントの向上

ライブストリーミング技術はリアルタイム翻訳を可能にし、ライブイベント中に英語の解説に中国語の字幕を付与しています。従来のデータセット学習モデルを覆すゼロショット学習は、シンプルなクエリ（例：「赤い1番のジャージを着た選手を特定」など）に基づいて、超パーソナライズされた視聴体験を提供することが期待されています。

課題の管理

AIや他の技術の活用は、プレイの流れを妨げる可能性や、アスリートのプライバシーや不公平な競争に関する懸念を引き起こします。信頼を築くための強力なプライバシーとガバナンスシステムを確立し、スポーツの特別な魅力を維持するためのガイドラインを整備する必要があります。

勝ち筋の組み合わせ

スポーツは、何が起こるか分からない興奮と、人間としての限界に挑戦するアスリートの姿で人々を魅了し、結びつけます。AIは、アスリートのパフォーマンスを向上させ、スコアリングや審判の議論を軽減するだけでなく、これまで体験したことのないような競技への没入感を高めることで、スポーツの魅力を引き上げることができます。

また、AIは、次のペレ、ナダル、またはビリーズを発見する手助けをするかもしれません。適切に活用されれば、AIとスポーツは大変有用な組み合わせとなり得るのです。